BlogKenJr.
カスガシカオ志望である作者が、広く世の中に認知してもらうためのあらゆる実験を行うための日記。またカスガシカオになるまでの過程を随時報告していきます。
「土」
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「土選びから始まるわけですよ。なんといっても陶芸は土によって決まりますから」

井川がローカルTV局のインタビューに答えて言う。

「なるほど、やっぱり土にもいい土、悪い土があるのですね?」

レポーターの女性が目の前の作業台の上に乗った土の塊をつつきながら言う。

「もちろんです。土を選ぶ技術、こねる技術、かたどる技術、その他様々な技術が結集して、ようやく一つの作品が出来上がるのです。どれか一つが欠けてもいい作品は出来ません」

井川が力説するのをレポーターは真剣な表情で頷いている。

「井川さん、今日はどうもありがとうございました」

井川に一礼し、レポーターはカメラに向き直り、

「それでは『いきいきサタモ二』来週は水墨画家の十条さんの工房におじゃまします。また来週!」





収録が終わり、スタッフが機材を片付け始める。

「今日は本当にご協力ありがとうございました」

ディレクターが改めて井川のもとに挨拶に来る。

「いやあ、こちらこそいい宣伝になります。陶芸家なんて言うと聞こえはいいですが、ほとんど陶芸教室で食っているようなものですから」

井川は芸術家や職人ぶったところが無く、気さくに言った。

「そうですね、放送を見て生徒さんが増えたら僕達も伺った甲斐があります」

ディレクターは笑顔でそう言い残し、スタッフ達と工房を出て行った。

皆が出て行った後、一人残った井川が呟く。

「まったく……芸能人にでもなったつもりか」





「山さん、やっとわかりましたよ」

写真を片手に刑事部屋に駆け込んできた順二。

「男の名前は花山金太郎。年齢は25歳。ローン会社アイクルの社員です」

「どこに住んでる?」

「都内の会社の寮ですね、先程会社の方に電話したら今日は既に外回りの営業に出ています」

「行く先は?」

「聞きだしてあります」

「よしいくぞ」

W山田刑事はそろって刑事部屋を飛び出していった。



二人の山田刑事が勤めるR署管内でおこった殺人事件。

被害者は火曜日の未明に、路上駐車された車の中で発見された。

背中には大きめな刃物、おそらく家庭用の包丁で十数か所刺された後があり、死因はその刺し傷からの大量の出血による失血死とされた。

死後少なくとも4日は経っており、車内に血痕はなく、遺体にも血液を洗い流した痕跡が見られた。

そのため、何者かが被害者を殺害後、死体の血液を洗い、車に乗せて発見現場まで運んだと警察は考えた。



車の車検証から、持ち主は後藤啓明と判明。

ほどなく被害者本人であることが確認される。



後藤の足取りを5日前から調べてみると、水曜日以前は彼の炭焼き工房に閉じこもり、炭焼きの作業に従事していたことが彼の制作日記から分かった。

木曜日に完成した炭を「陶芸家I」のもとに、送り届けると書いてあった。

「陶芸家I」を調べてみると、同じ県内に住む井川光彩という陶芸家が浮かんでくる。



さっそくW山田刑事は井川の陶芸工房に出向いた。

水曜日のことである。



「まさか後藤さんがそんな目にねえ」

井川は驚きを隠しきれないといった表情を見せたが、山さんはそれが演技なのか本気なのか見抜けなかった。

「それでわれわれが調べた後藤さんの最後の足取りが、あなたのところなんです」

山さんは今度は見逃さないようにしっかり井川を見据えながら聞いた。

「あなたのところを出てから後藤さんが行った先が分かりますか?」

しかし井川はやはり表情には何も出さず、

「分かりませんねえ。特に何も言っていませんでしたから」

山さんは何か調子が悪いと、横で二人のやり取りを聞いていた順二は思った。

「それではあなたはその後何をしていらしたのですか?」

お決まりの台詞だが、山さんは疑いを隠さずに言った。

しかし、井川は木曜の3時ごろに後藤から炭を受け取った後、すぐにその炭を使って陶芸教室の釜焼きの実践授業を行っていた。

金曜から後藤の遺体が発見される火曜まで、朝から晩まで陶芸教室を開催し、その間生徒や弟子達と一緒にいたことが証言されている。

「また来ます」

釈然としないというより、何か気持ちの悪さを山さんは井川から感じていた。

これまでに山さんがあまり感じたことの無い、不可解な感覚だった。

井川という人間がいまひとつつかめないことに苛立ちを感じていた。

山さんは井川に疑いを残しながらも、井川に会うまでと会ってから以降の後藤の足取りを洗いなおすことにする。





井川に会ってからの後藤の行動は一向に掴めずにいたが、井川に会う前にP駅前の大衆食堂で後藤が若い男と昼を摂っていたことがわかる。

二人の刑事は、その若い男を探すことに専念する。



順二がP駅周辺の聞き込みをしたところ、後藤と一緒にいたとみられる若い男を駅の職員が覚えていた。

男はちょうど一週間前の木曜日の早朝、東京方面からP駅に降り、駅員に地元の名士である企業の元会長の家を尋ねた。

そして昼過ぎに再びP駅で男が後藤と別れるところを見たという。

「いい年の男二人が、手を振り合って別れていたのがなんとも不気味で、よく覚えていますよ」

そう語る駅員に、順二はその地元の名士の家を尋ねる。

するとP駅からバスで1時間半ほどの山奥にあり、さらに奥に入ったところに後藤の炭焼き工房がある。

若い男の足取りを追うべく、順二はさっそくその名士、神川総一郎の家に向かう。



バスを降り、さらに歩くこと30分。

ようやく順二は神川邸に辿り着く。

「P県警の山田といいます」

門に設置されたインターホンに向かって名乗ると、自動で門が開錠し、順二は屋敷の方へ誘導される。

門から屋敷の玄関までさらに5分ほど歩き、玄関のインターホンに再び名乗る順二。

程なくお手伝いさんらしき初老の女性が現れ、中に通される。

玄関の土間には、等身大のシャケを口に銜えた等身大の木彫りの熊が置いてある。

「でっかいっすねえ、シャケも熊も」

順二が目を見張りながらそう言うと、初老の女性は少しうつむき、口を隠しながらクスクスと笑った。

「な、なにかおかしな事いいました、おれ?」

順二は恥ずかしそうに尋ねると、

「すいません。先日訪ねてこられた若い男の方と全く同じことおっしゃたものですから、つい」

順二は彼女の言葉に即座に反応する。

「そ、その男のことで伺ったのですが、名前はなんと言っていましたか?」

するとお手伝いさんは首をかしげながら、

「さあ、私が門のインターホンから承ったときは、『紅谷総太、旧姓長島総太の代理のものです』としかおっしゃらず、旦那様もそれでお通しするようにおっしゃいましたので。その方自身のお名前は存じかねます」

「そうですか、紅谷、えー、括弧、長島総太っと」

順二は手帳にメモを取った。

「旦那様はおそらく聞いていらっしゃると思いますので」

そんなことを話す間、ずっと廊下を歩き続け、ようやく屋敷の主、神川総一郎のいる応接室に辿り着いた。


「P県警の山田巡査です」

手帳を提示しながら改めて名乗る順二。

「私が神川です」

やわらかな物言いとは裏腹に、線の細い白髪の老人は、何の用だと言わんばかりにじろっと睨みつける。

(山さんや大門警部とはまた違った迫力だ)

順二はその二人の刑事よりも遥かに年老いており、体も小さい神川から、二人以上の威圧感を感じていた。

(やはり、一つの企業を築き上げ、さらには一時代までも築いてきた人物は違うな)

順二は飲み込まれそうになるのを必死で耐えながら、本件に入る。

「今日こちらに伺ったのは、ちょうど一週間前にこちらに訪れた若い男の行方を追っておりまして」

「その男が何かしたのかね」

再び目をギラリと光らせ、神川は順二に尋ねる。

(そうか、目だ。目が違うんだ。凄い目力だよ、ほんとに)

順二は心では震えながらも、なんとか表情には出さずに続ける。

「実はその男を、ある殺人事件の参考人とみています」

言ってから順二は「殺人」と付けない方がよかったのでは、と後悔する。

「殺人事件?」

案の定、神川は大きな目をさらに大きく開け、順二言うところの「目力」を存分に発揮している。

「ええ、そのーおそらく木曜の夜に殺害されたと見られる男と、こちらに訪ねて来た男がP駅で一緒にいるところを駅員が目撃していまして。さらに駅員にその男がここの来方を聞いていたとのことでして」

「なるほど、それでここに辿り着いたということですな」

神川は納得がいったというように頷きながら言った。

「ええ、そうなんです。それでその男の名前などを伺いたいのですが。彼は何のようでこちらに来たのですか?」

「その質問には答えなくてはいけないのかね?」

神川はこれまでで一番の「目力」を順二に向けながら言った。


「ええ、是非」

そんな神川の睨みに怯むことなく、順二は彼の目を真っ直ぐ見据えながら答えた。

神川は順二の意外に強気な態度に、一瞬驚き、顔をしかめたが、すぐに目を細め笑顔を見せた。

その目には、もはや先程の人を押しつぶしてしまうような力は無かった。

「ふむ。見かけによらず、中々肝が据わっておられるな」

「私はただ事件の手掛かりを得たいだけです」

内心はびくびくしながらも、順二は自分でも驚くほど震えずにはっきりとした声で言うことが出来た。

「良かろう。その男がここに来た目的を話すことはできぬ。しかし、その男を追う手掛かりは、君の仕事熱心な態度に免じて教えてあげよう」

そう言うと神川は、インターホンのボタンを押し、順二を案内した先程の家政婦を呼び寄せた。



ほどなく、その家政婦がお盆を手に現れる。


お盆の上には二枚の紙切れが乗っていた。

「これが君の言う男の写真と名刺だ」

そう言って神川は順二にお盆に乗った二枚の紙片を渡す。

「写真があるのですか?」

それは白黒で、A4のコピー用紙にプリントされたものであったが、男の顔がはっきりと大きく写し出されており、人物を特定するのに十分なものであった。

「おや?」

順二はその写真の男ではなく背景に、つい最近見たような既視感を覚えた。

「気付いたかね?」

神川は家政婦からもう一枚紙片を受け取り、それも順二に渡した。

「こ、これは……」

紙片を見た順二はそのまま絶句する。

そこには、先程の男と同じ背景と共に、大きく順二の顔が写っていた。

「まさか、これは」

「そう、そこは玄関じゃよ。」

神川は順二の反応を面白がるかのように、笑いを浮かべながら答える。

「あの木彫りの熊を見ると、誰もが一瞬じっと見つめるからの。うまく正面の顔が撮れるわけじゃ。まあ、この家に訪れるものはひと癖もふた癖もある者ばかりじゃからな。時々こうして役に立つ」

「はあ」

順二は自分の写った用紙ともう一つを見比べながら、生返事をする。

「何か法的に問題ありますかな?」

「いえ、全く。防犯カメラと考えていいのではないでしょうか」

順二は、神川は趣味としてやっているのではと思いつつも無難にそう答えた。




「それではこちら、頂いていきます。失礼します」

「ああ、早く事件が解決することを祈っていますよ。私に協力できることがあれば、またいつでもおいでなさい」

順二は大きな手掛かりを得て、神川邸を後にした。



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【2007/02/03 22:36】 | 小説 | トラックバック(1) | コメント(1) |
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はじめまして。みんなde創る物語の管理人、ミラノです。このブログは内容が濃くてとてもおもしろいです^^自分のブログもこんな風になれたらいいなぁ(笑)応援よろしくお願いします!

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けん@neo

Author:けん@neo
作家を目指しながらも、日常に追われる日々を過ごす35歳。
名古屋生まれの、名古屋育ち、だが現在は関東在住。
作家に限らず、同じように自分の才能を世の中に送り出したいと考えている方たちと、交流がしたいです。

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