VC PTN 2870485 BlogKenJr. 「木」
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作家志望であるかどうかあやしくなってきた作者が、広く世の中に認知してもらうためのあらゆる実験を行うための日記。また作家になるかどうかあやしくなってきた過程を随時報告していきます。
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「木」
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「木彫りの熊ってあるじゃないすか。あの口にガってシャケくわえたやつ。あれってなんで何処の家の玄関にもあるんすかね?」

助手席の男が質問なのかひとり言なのかわからない言い方でしゃべっている。

「うちの玄関にはない」

後藤は、助手席の方をちらりとも見ずに一言で答える。

「そうっすか?うちの実家にもあったし、俺が訪ねる家にはたいがいありますよ。今日行った家にもあったし」

後藤が今の会話を続ける意思がないことが、助手席の男にはうまく伝わらなかったようだ。

「でも今日の家のやつはすごいね。なんてったって実物大だから」

「なにが?」

「なにがって、熊がですよ。シャケだけ実物大じゃバランス悪いでしょ」

後藤は睨みつけるように助手席の男を見るが、今度は男の方が窓の外を見ているため、またも効果はなかった。

「まあ何が凄いって、そんな馬鹿でかいものおける玄関がすごいっすよね」



後藤は早くもこの男を自分の車に乗せたことを後悔していた。




後藤が人里に下りてくるのは10日振りのことだった。

後藤は山中にある個人の木炭工房で炭焼きの仕事をしている。

元来、人付き合いが苦手な性分で、25年前は自分に向かない営業の仕事をしている内にストレスで酒にはしった。

そして当時の妻に愛想をつかされ、幼い子供を連れて出て行かれる。

その直後に会社を辞め、自分を見つめなおすための旅の途中で今の炭焼きの仕事に出会った。

人相手ではなく、木と火を相手にする仕事は自分の天職であると後藤は直感する。

彼はそのとき訪れた炭焼き職人の下で修行をつみ、10年かかって小さな自分の炭焼き工房を持つまでになった。

そして師匠の下を去り、個人で炭を焼くようになってからは、ますます人との付き合いを断っていった。



そんな後藤がどうして見ず知らずのこの男を自分の車に乗せる気になったのか。

後藤自身も不思議であった。

しかし、後藤は人付き合いが苦手なだけで、元々冷たい人間ではなかった。

滅多に人も車も通らない林道を、とぼとぼと肩を落として歩く男の後姿を見て、思わず自分から車の窓を開け、彼に話しかけていた。

「どうしたんだね?こんなところで」

案の定、男は2時間に一本しか来ないバスに乗り遅れたという。

「乗っていくといい」

そんな途方にくれた男をほおっておけるほど強気なら、逆にもっとうまく人と付き合うことが出来たかもしれない。

後藤はそんなことを思いながら、男を車に乗せた。






「いやーそれにしてもいなかっすねえ。これじゃあ、バスが2時間に一本て言うのも頷けるっすね。人が来ないでしょ、こんなところ。バス走らせるだけ無駄だもの」

助手席に座ったとたんに、それまでの憔悴しきった顔が見る見る生気を取り戻し、こんな調子でもう一時間以上も一人でしゃべり続けている。

「そんな田舎に何の用で来たんだ」

彼一人でしゃべらせるよりも、自分も話をした方が相手が黙る時間が増えて、疲れないことに後藤は気がついた。

「ええ、まあね。野暮用ですよ」

男はこの一時間、自分のことに関してはほとんどしゃべっていなかった。

後藤は珍しく他人に対して興味がわいてきた。

何でも隠そうとするものは暴きたくなるものだ。

「さっき言っていたでかい家にかい?」

「あれ?でかいって言いましたっけ、おれ」

男はとぼける。

「玄関がでかいって。玄関だけでかくちゃバランス悪いだろ」

後藤にしては精一杯の冗談だった。

「あらら、逆襲されちゃいましたね」

男はけらけらと笑う。

「俺の知り合いのね、本当の父親だっていう男の家に行ってきたんすよ」

「本当の父親……」

後藤はその言葉に過敏に反応していた。


妻が出て行って以来、息子にも会っていない。

その後、妻は再婚したと聞いている。

幼くして別れた息子は、その再婚相手が本当の父親だと思っているのだろう、と後藤は考えている。

おそらく元妻も自分の存在を無いものとして息子を育てたに違いない。

そういったことを考え出すと、後藤はたまらなく寂しい気持ちになるのだった。

後藤は決して孤独を望む人間ではなかった。

ただ人の温もりを求める強さより、人に傷つけられる恐ろしさの方が勝っているだけなのだった。

しかし今日は人との触れ合いを求める気持ちの方が少しだけ強かった。




「その、君の知り合いというのは、男かい?それとも女の人?」

「男ですよ。今年で30になるのかな、あいつは」

(30か。息子と同じ年だな)

後藤はまたも息子のことに思いをめぐらすが、5歳で別れた息子の30歳になった姿はどうしても想像出来なかった。



「そのう、最近知ったのかね?本当の父親のことを」

「そうっすね。そうじゃなかったらあんな借金してねえだろうからな」

「借金?」

「いやいや、こっちの話です」


(その「こっちの話」が今日は聞きたい気分なのに)

と思うが、口には出せない後藤。



「ぶっちゃけっすね、おれ借金取りなんすよ。」

とうとう男の方から話をしだした。

そして既に後藤はそれを鬱陶しいとは思わなくなっていた。

「で、知り合いっていうのは、金貸した相手でね。どうにもこうにも返しようが無くて、切羽詰った奴だったんですけど。実は父親がこの山の奥に隠居してる大企業の元会長だって。その男の母親に聞いたんですよ。会長の愛人だったってね」

「それでその元会長に取り立てに行ったのかい?」

「まあ、そういうわけですよ」

男はもはや人事であるかのように興味無さげに言う。

後藤は拾ったときの男の様子から結果は分かっていたが、一応聞いてみる

「でもそんなもの払う義務はないんじゃないか。どうなったんだい?」

「払う義務どころか、そんなところに取り立てに行くのは本当は法律違反なんすよ。でもね、そうは言っても実の息子のことだし、情に訴えれば払ってくれるかなってね」

男は言いながら首を横に振ってみせる。

「甘かったすね。やっぱあんだけの金持ちになると、親子の情とか薄れるのかな。それとも愛人の子供だからか」

「そうかね」

言いながら後藤は自分だったらどうするか考えた。

もし25年間会うことのなかった息子が突然に現れ、自分を頼ってきたら。

(果たして自分は答えてあげるのだろうか)




「俺なら払ってやるけどなあ」

全く人事の気楽さから出たと見え見えの男の台詞だった。



後藤の車は結局、1時間半かけて、一番近くの町まで辿り着いた。

「この先に駅があるから」

車を降りる男に向かって後藤は言った。

「ありがとう、おじさん。お礼に飯でもおごるよ。ちょうど昼でしょ」

時計を見ると、確かに昼を少し過ぎたところだ。

いつもならそんな人の誘いを受ける後藤ではなかったが、

「ああ、じゃあご馳走になるかな」

やはり今日の後藤はいつもより積極的になっていた。




二人で駅前の大衆食堂に入る。

田舎ならではで、駅前にも関わらず、車は店の前に停めっぱなしにしてある。



「今日のゲストは昨日の遠藤さんからのご紹介。藤巻愛さんです」

食堂のテレビには、サングラスの司会者のお昼の番組が流れている。

「好きなもの食べてくださいよ。まあ、どれも大した値段じゃないっすけどね」

「なんだか悪いね。仕事、うまくいかなかったのに」

後藤はすまなそうに言う。

「あいたっ!その話はなし!気にせず頼んでくださいよ」

「じゃあ、遠慮なく」

後藤はサバの味噌煮定食を、男はから揚げ定食を注文する。

程なくそれらが運ばれ、二人はしばし食事に集中する。




「はい、それじゃあお友達の方を……」

「えーっ!!」

「ありがとうございます。それでは山田順二さんを」


から揚げ定食を食べ終えた男は、テレビを眺めながらタバコをふかしている。

(そういえば車の中では一本も吸っていなかったな)

後藤はタバコは吸わない。

車も禁煙車にしているわけではないが、人を乗せることなどほとんど無いので、車内はタバコの臭いがしない。

後藤は改めて男の顔を見る。

(意外と気を使う人なのかもしれない。しゃべり続けていたのも私を退屈させまいとしてか。実際こんなに人と会話したのは久しぶりだ。しかも自分から積極的に)

そう考えながら、後藤は男の名前をまだ聞いていないことに気がついた。

今さらいったいどうやって聞き出したものかと迷いながら男の顔をうかがっていると、その視線に気付いた彼が、

「そろそろ行きますか?」

と立ち上がるので、結局聞けずじまいで店を出る。



「それじゃ、本当にありがとうございました」

男は柄に無く丁寧に頭を下げる。

「いや、まあ気をつけて」

後藤はまだ名前を聞き出そうか迷っていた。

「じゃあ、これで」

男は駅の券売機の方へと歩いていく。

「あ、ちょ、ちょっと」

後藤は慌てて声をかける。

男は振り返って、何事かと無言で後藤を促す。

「そのう、名前を、名前を教えてくれないか」

後藤の言葉に、男は一瞬首を傾げたが、すぐに、

「ああ、失礼しました。まだ名乗ってませんでしたっけ」

相変わらずのとぼけた様子で答える。

そしてスーツのポケットから名刺ケースを取り出し、一枚の名刺を後藤に手渡す。

そこにはローン会社の名前と男の名前が書いてあった。

「ご入用の際は、よろしくお願いします」

男はにっこり笑ってもう一度礼をし、今度こそ券売機に向かった。

「そんなもの必要ないからこんな山奥に住んでるんだよ!」

後藤は男の背中に向かって叫んだ。

本当に短い付き合いだったが、もうそれぐらいの冗談は通じる仲になったと後藤は感じていた。

果たして男は再び振り返り、にこっり笑って手を振った。

後藤も、彼が改札口に消えていくまで手を振り続けた。





車に乗り込み、後藤は考える。



今日はこの後、陶芸家の工房に炭を届けに行く。

その用事が済んだら、別れた妻と子供に会いに行こう。

別によりを戻そうなんて思わない。

ただ、困ったことがあったとき、私を頼ってもいいのだと。

ただそれだけを言いに行こう。




後藤は何年振りかにカーラジオのスイッチをひねった。

ラジオから流れる人の声が心地よかった。





END


「金」につづく




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【2007/02/01 20:31】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) |
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Author:けん@neo
作家を目指しながらも、日常に追われる日々を過ごす37歳。
名古屋生まれの、名古屋育ち、だが現在は関東在住。
作家に限らず、同じように自分の才能を世の中に送り出したいと考えている方たちと、交流がしたいです。
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