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作家志望であるかどうかあやしくなってきた作者が、広く世の中に認知してもらうためのあらゆる実験を行うための日記。また作家になるかどうかあやしくなってきた過程を随時報告していきます。
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「ただいま」

安倍氏の、いつもと違う沈んだ声に、妻のフミさんは不審に思った。

「おかえりなさい。どないしました?何か悪い事でもありました?」

フミさんの顔を見るなり、安倍氏は深い溜め息をつく。

「 ありました所やないがな。ほんまに、何でワシなんや」

上着を脱がせてもらいながらも、ブツブツ言い続けている安倍氏だが、
フミさんは要領を得ない。

「何があったのか、ちゃんと説明して下さい」

そう言われて安倍氏は、やっとフミさんの顔を見据えて言った。

「あんな、今日、小野はんに呼び出された時にな、もう悪い予感はしたんや。せやけどワシ、そんな大層な実績もないし、語学も出来る訳やないから、まさか選らばれるとは思わなんだんや。せやのに……」

「せやから何ですの?」

「ワシ、遣隋使に選らばれてしもた」




フミさんは、しばらく安倍氏の言っている意味が解らず、呆けていた。
しかし、やっと頭が働いて、もう一回安倍氏に聞いてみる。

「はあ、遣隋使ですか。それって何です?」

「お前は、ほんまに物を知らんのう。それでも役人の細君か。あのな、遣隋使と言うたら朝廷を代表して、隋の国に渡って、向こうさんの文化を学んでくる、ありがたい、大事な役目なんや」

「それやったら栄転とちゃいますの?」

「栄転ていうなやお前、ずっと向こうに居るのとちゃうんやから」

「どれくらい、いきはるの?」

「せやなー、まあ数ヶ月、へたすると、一年以上になるかなあ。大体、行って帰るだけでも一ヶ月以上かかるやろ」

「どないして行きますの?」

「どないしてって、船で行くに決まっとるやないか」

「危ない事ないの?」

「それやがな。なんぼ最近になって、船の技術が上がったゆうてもそれ、海の上をゆく訳やから自然が相手や。絶対安全なんて事はありえへん。ワシはそれが心配なんや。そら、うまいこと帰って来れたら、おそらくえらい出世できるで。せやけど、帰って来れるかどうかが、まず心配やからな。それに向こうさんでも、そら偉いさんは歓迎してくれるかもしらんけど、一般市民なんかはどうか解らんで。何やヨソ者がきよった、偉そうにしとるで、気にいらんゆうて、ブスッと刺されてみい。何しに行ったかわからんで。大体あの小野はんも……」

「あなた、また話は食事の時にゆっくり聞きますから。先にお風呂入っちゃって下さい」

安倍氏のとめどない話を、いつもの様に打ち切って、フミさんは台所に食事の用意をさせに行った。




「ただいまー!」

力のいつも以上に高いテンションでの帰宅に、ユメさんは、戸惑いながらも出迎える。

力はユメさんを見るなり、抱きついて言った。

「やったよユメちゃん。俺、隋に行けるんだ」

「ちょ、ちょっとどういうこと?隋ってなあに?ちゃんと説明してよ」

一人で興奮しながらしがみつく力を引き離しながら、ユメさんは言った。

「隋っていうのは、西の方にあるでっかい国の事だよ」

「そこに何で力君が行く事になったの?」

「何でって、俺が船乗りだからに決まってるじゃないか。俺が、遣隋使御一行様の乗る船の船頭に、選ばれたんだよ」

「船ですって?隋って海の向こうにあるの?」

「だからさっき西の方って言っただろ。海の向こうじゃなきゃ、船乗りの出番なんて無いじゃないか」

「そうだけど。でも、何で力君が?」

「あのねユメちゃん、ちよっと俺のこと見くびり過ぎてない?俺ってこう見えて優秀な船乗りなのよ。小野様自ら船員の作業場までお越しになって、仕事振りを見て選らんでくれたんだよ」

「小野様って?」

「小野妹子様に決まってるじゃないか」

「へえ」

ユメさんには、誰の事かよくわからなかったが、力の興奮からして、よっぽどの大人物なのだろう。

「とにかく、これは凄く名誉な事なんだよ。報酬だってたっぷり貰えるし。ほら、ユメちゃん前から欲しがってた髪飾りがあっただろ。あれだって買ってあげれるよ」

「本当に?でも危険じゃないの?」

「そりゃ海を渡るんだから、絶対安全って事はないよ。でもそんな事、海の男だったら当然だろ。ユメちゃんだって、海の男の奥さんなんだから、それぐらい承知の上だろ」

「そりゃそうだけど。でも心配だわ」

「大丈夫だって、俺の腕を信じろよ。それにさ、向こうに行ったら、隋の国の珍しい物を一杯お土産に持って帰ってあげれるし。それに帰って来たら、もしかして海軍の船長になれるかも。そしたら大出世だよ」

力は急に真顔になり、じっとユメさんの顔を見つめた。

「今までユメちゃんには苦労をかけたけど、これからは楽させてあげられるよ」

「私、今までも、苦しいなんて思った事ないよ。それより、力君の身が心配。それにいつまで向こうにいるの?いつ帰ってこれるの?」

「そうだなあ、数ヶ月、いや場合によっちゃ一年以上になるかも」

「そんな、一年以上もなんて。私、その間一人で待ってるのよ、寂しい
わ。力君は寂しくないの?」

「そりゃ寂しいさ。でもユメちゃん、分かってくれよ。今回の事は、本当に大きな機会なんだよ。俺の夢が叶うんだ。わかってくれるよね」

子供の様に目を輝かせる力に、何も言えないユメさんだった。





「そらワシかてな、今回の事はええ機会やと思うで。うだつの上がらへんかった、ワシやったけどな。今回のおつとめを、無事終えて帰ってきてみい、その後は出世街道まっしぐらや。下手すると官位まで頂けるかもしれへん」

食事を終え、一杯やりつつ、安倍氏は妻のフミさんに、話を続けていた。

「そうなったらやで、今までお前には苦労をかけてきたけども、やっと楽させてあげれると思うんや」

珍しく殊勝なことを言う安倍氏に、フミさんも悪い気はしない。

「そんな、今までも私、苦しいなんて思ったことありません。でも、そない思うんやったら、ええ事やないの」

「そやかてお前、下手したら一年以上やで。一年以上もお前の顔を見られへんと思うと…お前は平気なんか?」

「そら私かて平気なことあらしません。それでも、愛する亭主の出世を、妻が寂しいからといって止めるわけにはいきまへん」

「お前……」

安倍氏は、フミさんの思いに、ぐっと言葉につまり、涙がにじむのである。



「でもな、一つだけ不思議なんが、何でワシ何かが選ばれたんかゆうことやねん。他にも優秀な人は何ぼでもおるし。行きたいって前から願いを出してはった人も、ようけおったんやで。そやのに何で。ワシなんか、特に仕事が出来るわけでもなし、隋の言葉も話されへん。他に選ばれた人も、何やワシが言うのもなんやけど、ぱっとせんような人ばっかりのような気がするし。どうゆうことなんやろ」
しきりに安倍氏は首をかしげる。

「あなた。そうは言っても遣隋使なんて初めての事やろ。それやったら、どんな人が適任かなんてわからしません。もしかしたら、国内ではぱっとせんような人でも、あちらに行くとうまく活躍出来るかもしれません。私から見ても、あなたは人見知りしないし、人当たりもいい人です。何ぼ仕事が出来る人よりか、そういう社交的な人が、選ばれるんと違いますか」

「そやな。お前の言う事には、確かに一理あるわ。それに、あの小野はんが選びはった事やから、間違いがあるはずも無いわな」

「あなたは、なんやかんや言うても、小野はんの事を信頼してはるんやねえ」

「当たり前やがな。そら時には意見が対立して、ぶつかり合うこともあるけどもや。ワシはほんまに、あの人のことを尊敬してるんや。あの人について行ったら間違いないと思てる。今回もワシの事を選らんでくれはった小野はんのために、懸命にお勤めしてくるわ」

「あなた……」

一皮剥けた様な、安倍氏の態度に、フミさんも惚れ直す気持ちだった。





「ねえねえ、小野様ってどんな人だった?」

食事中にユメさんは、力に気になっていた事を聞いた。
夫の出世が決まった日だったので、少し奮発して、いつもより豪華な夕げだった。

「そうだなあ。作業場を視察に来られた時は、遠目だったからよく見えなかったけど、思ったより若々しい感じだったよ」

「そう。でもそれじゃあ、小野様の方からもよく見えなかったんじゃないの?」

「いや、向こうは船の動かし方を見てるから、人の顔なんか解んなくたって大丈夫だよ」

「じゃあ、どうやって力君の事が凄いってわかったのかしら?だいたいなんで力君が船頭なの?永造さんや風太さんはどうしたの?」

「それがさ。永造さんや風太さんは、前々から遣隋使の話を聞いて、ぜひやりたいって、役人にも言ってたんだ。それで、視察の日なんかもえらい張り切ってたさ」

「それがどうして?永造さんや風太さんの方が、力君よりずっと先輩だし、腕もいいわ」

「うん。だけど今回は、二人とも行かない」

「え?行かないの?船頭にならなかっただけじゃないの?」

意外な言葉に、ユメさんは、慌てて聞き返す。

「うん、行かない」

「何で?ああもしかして、力君みたいな若僧が船頭になったから、やってられっかって、断っちゃったとか?」

ユメさんは、かわいい顔でずばずば言う。

「酷いこと言うなあ。そうじゃないよ。選ばれなかったんだ」

「選ばれなかった?」

ユメさんは、益々不審な顔になる。

「うん。確かに俺も、それは不思議だったんだ。船頭はともかく、船員にも選ばれないなんて。それに、選ばれた船員ってのがほら、あのごん太とか俵助とか。あの連中なんだよ。あんまりいい評判は聞かない奴らさ。腕はいいのかもしれないけどね」

力も言いながら、顔をしかめた。

「それって何だか、おかしいわ。だって大事なお役目なんでしょ?何で永造さん達を外して、そんな人達を選ぶわけ?」

ユメさんは、なかば怒り気味に言う。

「まあ、上の役人の考える事は、よくわからないけどさ。俺は小野様を信じてるよ。俺がさ、そういう厄介な連中を、まとめる腕を持っているって、見抜いてくれたんだよ。だから俺は、精一杯頑張るよ。だってこんな名誉な事はないだろ」

遠い目でそう語る力に、ユメさんはまたも、何も言えなくなるのだった。

「名誉ねえ……」






「ねえ、妹子さま。本当に隋の鏡を買ってくれるの?」

しとねの中で、女は甘えた声を出す。

「大丈夫やって。ちゃんと買うたげるって、前からゆうてるやろ」

女の髪を撫でながら、小野氏は言った。

「だけど寂しいわ。一年以上も会えないなんて」

うつ伏せに体の向きを変え、女は上目使いに、小野氏の顔を覗きこむ。

「何ゆうてんの。一年以上も会わんかったら、ワシ寂しゅうて死んでしまうがな」

小野氏は大袈裟に、自分の首を絞める振りをした。

「でも、向こうに行ったら、それくらいかかるでしょ」

女は小野氏のふざけた態度に、少し腹を立てながら言った。

「ああ、行かへん、行かへん」

「え?どういうこと?」

女は大きな目を、なおも見開いて聞く。

「隋なんて行くわけあらへんがな。あんな危ないとこ」

「行かないの?どうして?」

「何が悲しゅうて、危ない目までして、あんなとこまで行かなあかんねん。あんな所は、下っ端の、何の役にも立たん連中に行かせといたらええねん。ワシら権力もあって、ええ生活しとるもんが、わざわざ死ぬ思いして、いや下手したら、ほんまに死ぬんやで。そんなこと出来るかい。もったいない」

「でも、小野様が行かないと、まずいんじゃないの?」

女は顔をしかめて言った。

「そら立場上というか、表では行くことになってるで。せやけど、ある程度権力持ってる人間は、自分も選ばれたないから、みんな口裏合わせて、行ったことにしてくれよる。実際に行くのは下っ端ばっかりや。そんな者になんぼ騒がれたかて、痛いことあるかい」

女は小野氏の言葉に疑問を感じて聞いてみる。

「じゃあ何で、遣隋使なんて考え出したの?」

小野氏は女の顔を、じっと見つめながら言う。

「そら、お前が、隋の鏡が欲しいなんて言うからやないか」

女はまたも目を見開いた。

「じゃあ、みんな私の為に行ってくれるんだ。何かかわいそう」

「まあな。せやけどな、あいつらはそれを名誉なことやと喜んでるわ」

小野氏は、真顔になって溜め息をつく。

「いつの世の中にもな、ああいう自分の持ってる能力以上のことを何で
も有難がってやりよる奴はおるもんや」

小野氏は、視線を女からそらした。

「それが上の者に、上手いこと使われてるとも知らんとな……」




高台に建つ屋敷の外は、すっかり暗くなっていた。

小野氏は、女の髪を撫でながら、窓の外を、物憂げに眺める。



遠くに見える、港のあかり。


浮かぶ船の上で、せせこましく働く、人達の影が見えた。



END




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【2006/02/19 14:28】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(2) |
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コメント
えらいシュールでんな、これ。

なんやよう分からんけど、うまいことやってはりまんな、小野はんは。
【2006/06/07 18:48】 URL | omoteura #-[ 編集]
omoteuraさんへ

さっそくのコメントありがとうございます!

シュールな笑いが好きな僕としては、そう言っていただけると嬉しいです!

【2006/06/07 18:52】 URL | けん@neo #-[ 編集]
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Author:けん@neo
作家を目指しながらも、日常に追われる日々を過ごす37歳。
名古屋生まれの、名古屋育ち、だが現在は関東在住。
作家に限らず、同じように自分の才能を世の中に送り出したいと考えている方たちと、交流がしたいです。
YouTubeにTwitterもやってます。

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